好きが心を抉る
小さい頃の夢は歌手だった。
ある時を境に人前で歌うのが怖くなった。
それと同時に私の歌が下手クソで、歌っていて嫌になってくる事も増えてきた。
その度に、大好きの反対言葉が心を抉る。
愛情の裏返しはとてつも無く痛かった。
「こんなにも好きなのに」
「度重なる苦痛も音楽で乗り越えられたのに」
救われた回数は数知れず。
その力を知っているからこそ、私に出来ない現実が刺さるように痛かった。
歌以外は大抵上手くいく。勉強も何も必要なかった。
リズム感も皆無、裏拍子が取れない。
音程も蛇腹、どの音がわからない。
綺麗な歌声で歌えたら。
全身に響くような歌が歌えたらどんなに…。
他のもなんていらなかった。それさえあればよかった。神様はなんて…。
私の歌声が刺さる。嫌だ。痛いんだ。
テコでも動かない釘を打ち込まれた気分だ。
練習する気にもなれない。
「上手くならなかったら」
自分の鼓動が聴こえるほどの闇に呑まれそうで
きっと誰かに「音痴」と言われたら飛び降りるんだろう。そこまでに追い詰められていた。
あの時誰かが言った一言は正しくもあり、幼い子どもに向けるには余りにも残酷な一閃だった